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序章 赤潰疫再次

Author: 春埜馨
last update Huling Na-update: 2025-06-21 14:56:18

●はじめに

本作には、古代中国修仙界の世界観において、現代社会では不適切である、流血を伴う激しい暴力や拷問、差別表現や性別の有無を問わない性描写を含みます。

上記をご留意の上、お読みいただけますと幸いです。

月の光を遮るように、漆黒に渦巻く妖雲が、強力な妖魔や邪祟が眠る閉山《へいざん》を煽っていた。

 とある一画に、男十人でも動かすことのできない巨大な碑石で封じられた洞窟がある。一枚の強力な呪符が貼られているにも関わらず、その洞窟からはただならぬ霊気が漂い、風が吹くたびに不気味さが際立つ…。

 だが、そんな靄のような霊気など感じまいと、何者かが碑石に近づき、貼られた呪符を見つめている。

 そして、その呪符をゆっくり撫でるように触れ、口を開いた。

 「そこに眠る者よ、復活するがよい!」

 その者は、念仏を力強く唱えるように、決して剥がしてはならない呪符を勢いよく剥がした。

 良識のある者が目にしていたら、今頃この者は間違いなく腹を斬られていただろう。

 辺り一面は、瞬く間に轟くような地鳴りを呼び起こし、地面を揺らす。この世の終わりを知らせるかのように、巨大な碑石がガタガタと小刻みに揺れ始め、その者は碑石の前から三歩ほど下がった。

 天を突き抜けるかのようにヒビが入り、碑石は遂に重苦しい破壊音を立てながら真っ二つに割れた。

 砂塵が舞い、暗闇の中視界が眩む。

 しばらくすると、中からあの魑魅魍魎《ちみもうりょう》と謳われた妖魔・玄天遊鬼《げんてんゆうき》が腰を据えた様子で姿を現した。

 顔は全く見えていないが、確かにこちらを向いていることだけは分かる。

 しばらくその様子を伺うと、玄天遊鬼のドス黒く掠れた声が聞こえてきた。

 「私を解放するとは何が望みだ?」

 「統治を乱す者を消してもらいたい」

 「ならば、お前は私に何を差し出せる?」

 「何でも。あなたの仰せのままに…」

 玄天遊鬼は口角に残忍な笑みを見せる。

 そして、何も言わずゆっくり立ち上がり、二言三言交わした後、その者を洞窟の中へ呼び寄せた。

 この洞窟の中へ足を踏み入れたら最後、二度と戻ることはできない。

 その者が意を決して入るや否や、瞬く間に唸り声と、聞くに耐えないほどの残虐な音が、暗い洞窟の中で響いた。

 ・

 ・

 ・

 ・

 「赤潰疫《せっかいえき》だ!どいてくれ!」

 身体中の皮膚が赤くただれ、ぐったりとした息子を抱えた父親が、人々を掻き分けて走ってくる。

 行き交う村人たちは感染を恐れ、口を覆う者もいれば、痛々しい子どもの顔を見て目を覆う者もいた。

 赤潰疫は、疫病神でも知られる玄天遊鬼が各地で振り撒く疫病で、封印される三十五年前にも各地で猛威を振るった。

 触れるだけで他者に感染し、そのまま放置すると簡単に死に至る。適切な処置を施しても、その後は皮膚が黒くなり痕が残ると言われている。

 「誰か、流医はいないか?!誰か…頼む。息子を…、息子を助けてくれ!」

 藁にもすがる思いで叫ぶ父親の問いかけに、誰も反応を見せない。

 父親はその場で泣き崩れ、息子の頭を抱き寄せた。

 閉山付近の村は貧困で有名だ。

 薬を買う金がないどころか、今日一日の飯にありつけることすらできない者もいる。この親子の破れた衣を見る限り、二人は決して裕福とは言えないだろう。

 父親の胸の中で抱きしめられていた息子の細い腕が、力無く、だらんと垂れたのが分かった。父親の手や腕、頬にも赤潰疫が表出し始めている。

 「父さんも、すぐに行くからな…。向こうでは美味い飯をたくさん食おう…」

 父親は涙を拭い、息子を抱えながら立ち上がった。

 誰の視線も顧みず、悲壮感だけを漂わせて、この親子は静かに山の奥へと消えていった。

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